気づくと人が後ろに立っている。

地下鉄の電車内の窓ガラスは嫌だ。映る人間たちの目が私を追ってくるから。

 

それよりも外を走る電車の方が幾分ましだ。少なくとも窓ガラスに人間の顔は映らない。

 

地下鉄の窓ガラスに映る人間の大体は、こっちを見ている。びっくりするくらいに。映った目と自分の目が合うと、その刹那、戦慄が走る。逃げなければ、と咄嗟に思い、電車が次の駅に停まるとすぐに、他の車両へと逃げゆく。

 

何故そんなに私のことを見るのだ?

 

窓ガラスに映る顔だけでなく、自分の周りに実際にいる人間たちが私を囲んでいる。逃げられない。全身からの汗。

 

なるべく人と目を合わさないように、なるべく誰も自分に興味を示さないように、振る舞うよう努めている。努めていても、目が合ってしまうことは多い。

 

本は人の眼刺し(まなざし)を防ぐ壁となるから、電車では努めて本を読むことにしている。本の世界に片身だけ浸っていると、気付くと後ろに人が立っていてぎょっとする。

 

常に知らない誰かに追い回され、私はそれから逃げる。

 

常に誰かに追われている。そして逃げ場の無い状況を通勤時間の間、耐えなければならない。

 

電車の中、雑踏の中。

 

その日が終わって眠りにつく時、上を向いた状態で海の底へと自分が沈んでいくような感覚があり、そのままこの世から消えて無くなりたい、眠りから醒めたくない、と思った。幸福を感じた。

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