9193と新米老人

9193とは、会社から自宅への帰路の途中、最寄り駅から自宅までの間に出没する、奇怪なバケモノである。正確に言うと、ソイツが乗っている軽自動車及びソイツ自身を指す。9193は、私が意を決して横断しなければならない車道の傍らに、自らのポンコツ車を停車させ、その車内からぞっとするような常軌を逸した汚らわしい眼差しで私を刺し殺そうとする。そいつは19時半くらいに頻繁に駅周辺に出没する。俺はそいつが居るために、駅から自宅まで、本来であれば徒歩4分で帰れるところを、1時間半かけてしまうこともあった。

新米老人とは、2015年の文月の頃に新しく駅前の駐輪場の従業員となった挙動不審なバケモノである。私は毎朝自宅から最寄り駅まで歩いて行く際、駐輪場の敷地内を通っていた。その経路が私にとって最も安全に感じられたからだ。しかしソイツが出現してから状況は変わった。駐輪場を通ることができなくなってしまったのである。
ソイツは毎朝私のことをジロジロと奇っ怪な眼差しで射てくる。私は狼狽する。私はそのバケモノと距離を取り過ぎようとするあまり、はたから見ると私のほうが挙動不審に見えるであろう振る舞いをしていた。でき得る限りその妖怪から離れよう、離れようという気持ちが強すぎるあまり、結果としてその妖怪に目をつけられるはめになった。
自分がその妖怪から目をつけられている、そう私が認識してからは、私は駐輪場にソイツが居ないかどうかを駐輪場の前の車道を挟んだ手前の歩道から確認するようになった。もしソイツがいれば、私は駐輪場を通って駅まで向かうのを諦め、遠回りして駅まで向かうことにした。今はもう幾分慣れてきたものの、その遠回りの道は私にとっては精神的に困難な道だった。しかしバケモノが居ては駐輪場を通ることはできないから仕様がない。その道が私にとり困難な道であることは、今も変わらない。最寄り駅まで行くのに以前よりも時間がかかることになった。会社に間に合うように、5分ほど早く家を出るようになった。

死村には、これら以外にもたくさんの妖怪が蠢いている。



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